休日。困ったことに平日より忙しい。長いこと散歩したいし、本も読みたい。始めたらすこぶる体にキレをもたらしつつある柔軟もどきにだって時間を割きたい。だのに起きた時間は8時半。足りない時間をみすみす無駄にした。
外はばりっと晴れている。ベランダから見えるその天気は素晴らしい。が,隣の猫が不法侵入しているではないか。初めて見たけど,毛の長い茶色のデカイ猫で。ずいぶん目つきが鋭い。こっちにずっとガンを飛ばして固まっている。相手してても仕方ないし,こっちに実害もないので,追い払うわけでもなく、こちらからカーテンを下ろして対峙するのをやめる。
朝飯。冷蔵庫に入れっぱなしの,歯も折れそうな位にガッチガチのフランスパンを血を流しながら食べる。口の中切ったらしい。風味もないが、美味い,美味いと納得させて食べきる。鉄っぽい味がするが、それは自分のヘモグロビンの味だろう。
さて,今日はどうするか。忙しいという割には予定は入っておらず,無計画。皿を洗っている間に,即決でGoldstream provincial park (www.goldstreampark.com) 内にそびえるMount Finlaysonに登ることを決意。この公園は,ジャパンツアー前に家族で訪れた場所。その時は,息子も一緒なので平坦な場所で遊ぶことに終始していた。その時既に,この山に目星をつけていた。今は一人。大人の、大人しかできない遊びをするに限る。
車で20分強の場所。麓の公園にある駐車場に車を泊める (3ドル/日)。水,上着,タオルを入れたリュックサックを背負っていざ出発。こう見えても富士山にも,乗鞍岳にも登った経験がある。車で。登山なんて,実家の裏山程度で経験無い。まぁ,そうは言っても標高400m強の山。楽勝、楽勝! 落語の「愛宕山」の一八のように鼻歌交じり、かつ強気。
登山道というか,トレッキングコースの入り口に到着。いつも用意周到、念には念を入れることがない私は、珍しく掲示板に記載されている地図を入念に確認。「ふむ、ふむ。それじゃっ」 と思ったら、でっかく 「Caution!」 との張り紙が。冷静沈着なので、目を通せば。。。なんと、
Couger (Puma) とか、
Black Bear (黒熊) が出没する場所です。
注意せよと。黒熊に関しては、「あなたは、紛れもなく生息地にいるのです」 とでっかく書いてある。「???」 瞬時に理解できない。牧歌的な 「森の熊さん」 を頭の中で反芻し、Cougerに関しては「大きな猫だろ」と苦笑する。なんて、ことはない。こんな時こそ、冷静に。。。引き返す。ことはしなかった。だって冒険好きだから、では無くて、駐車代金の3ドルが惜しいではないか。決行。「自己責任」 と無縁だった日々も今日でおしまい。今日まで、私は会社の指示通り(しか)動か(動け)ない人間であったが、もうおしまい。大人の日本男児になるのである。しかしまぁ、こんな所で自己責任が降りかかってくるとは。。。
それでも、ポツポツ人がいるし。大丈夫であろう。とのんきに歩かず、その前を歩く人にできるだけ接近すべく早足で歩く。みんなで歩けば怖くない。トレイルは思いの他、最初から急斜面の連続。それでも早足でずかずか歩く。前は40代の夫婦と思われる二人。一緒に歩くのは気まずいので、5m程に接近し、それ以上距離は詰めず。これで少し安心。恐怖も危険度も1/3である。猛獣に会ったら「どうぞ」 と場所を譲るのではなく、3人で逃げるのだ。きっと。
急な坂道は経路の1/2くらいか。残りは、急な岸壁である。鬱蒼とした森から開放されて、もう猛獣の危険はないだろう。しかし、岩は乾燥しているのにツルッと滑る。どんだけ急かと言えば、頂上から下ってきた60代(と思われる)おじいちゃんが、二足歩行で下れず、尻餅つきながらすべり落ちてくるぐらい(実話)。ここでも、出てきた 「自己責任」。
今回はトレッキングシューズを履いていたけど、あれは森の中で役にたっても、岩肌ではだめだ。運動靴、ランニングシューズの方がいいと感じた。日本の地下足袋なんかだったら、こんな岩でも自在なのだろうなと感じる。
そんなこと考えても、トレッキングシューズで進むしかない。怪我しないよう細心の注意を払いながら、登る。地道に。息もかなりあがる状況で、普通で無い。高山病か? 400m台の山でそんなことがあるはずも無く、有酸素運動の領域を超えて、無酸素運動しているので乳酸が溜まってきただけだ。
前の夫婦もかなりしんどそうで、足を止めて休むことが多くなった。そしたら、こっちも休む。抜きはしない。細心の注意は最後まで。最後まで一緒になのだ。頭上には鷹か鷲が、上昇気流にあわせてぐるぐる回っている。鳥葬の時のハゲワシみたい。見たこと無いけど。そして、眼下の景色を眺めれば、ゴルフ場かよ。がっかり。それでも、遠くに海も見えるし、ゴルフ場の周りは深い森だし。自然を満喫しているのだと納得させる。
でも、まだ頂上ではないのだ。滑る。でも歩く。義務のように。ここまできたら登るしかないのだ。そして、頂上へ。鼻息荒く、到着。おぉ、先客が何人かいるではないか。景色を見渡す前に、おっちゃんの上半身汗だらけの裸が目に入ったのには失望したが、頂上である。人生初の単独初登頂。達成感が沸く前に、ここを再度下ることを考えると気が滅入る。下りは登りよりしんどそうなので、頂上でストレッチを入念に。そんなことしている人は誰もおらず。でもこれも自己責任。私は無事、下山を完了したい。
下山開始。思った以上に滑る。それでも足だけでなく、手も使ってゆっくり、着実に下る。岩場で3人の若いお姉さんとすれ違う。涼しい顔で 「はろー」 なんて言いながら下ろうとしたら、滑ってこけた。 「はろー」 言う前に、 「Oh!」 って声と、哀れみの視線をもらう。ストレッチでやわらかくなった体。余裕を持って尻餅付かず、切り抜けたが、こっぱずかしい。
途中、こんな岩肌登ってきたんだっけ??? と思う箇所があった。なんだか、急で足を引っ掛ける程度しか足場が無い。人もいない。でも、こんなとこ登ってきたんだな。と思ったら、やっぱりルートから外れていた。プチ遭難気分。そして、困難を選ぶ男。その後、無事本ルート合流。
Cougerにも、熊にも遭遇することなく、あと500mのとこまで来る。少し楽な気分でいたら、前から土佐犬を1/3位にしたような鼻息洗い興奮した犬が猛烈なダッシュとともに、飛び掛ってくる。勘弁してけれ。犬は苦手なのだ。相手はベロベロしてくるが、こっちはたまらない。飼い主に呼び返されて、戻っていたが本当に迷惑なり。
最後に最大のアクシデントはあったが、無事、下山で 「自己責任」 の登山終了。これでまた、大人の階段を一歩登ったと言えよう。そして、自己責任を初めて理解。。。できなかった。達成感? それなりに。深田久弥の日本百名山に感化されて、全部登ろうとするオジサマ、オバサマの気持ちにはなれなかったのである。
追記:
この公園の秋の見世物。川を登るサーモンの群れ。少し期待したけど、まだ時期では無い。目視で一匹も確認できず。11月頃が見頃だとか。北海道土産の鮭を銜えた「熊」みたいな光景、見れるのだろうか?